POIROT and me

chapter3-2. 申訳ないが、その衣装は着ない

面白いことに、最初に彼と色々と話したのは、イーストエンドにあるコメディシアターまで運転してくれた時だった。Tom Kempinskiの「Separation」がかかっていたのだが、その日バスも地下鉄もストで運行していなかったのだ。 「人生を変えたいと思ったこと、…

chapter3-1. 申し訳ないが、その衣装は着ない

1988年6月下旬、6時半前、明るくて気持ちのいい朝だった。撮影初日のその日、新居の周辺をシェイラと散歩していた。その日は人生で最も重要な日になると私は分かっていた。 ミドルセックス州PinnerにあるRonnie Barkerの家は、教会にも近く、私たちは購入し…

chapter2-5. 彼を滑稽には演じない、絶対に

しばらく月日が経って、1988年の夏、ある想いが浮かんだ。ポワロと自分自身が重なって見え始めていたのだ。 それはリストにポワロの特徴を書き続けて、65番目のことだった。「自宅で仕事をするときでも常にモーニングスーツを着用。まるでハーレー街(※高級…

chapter2-4. 彼を滑稽には演じない、絶対に

クリスティが書いていたのはこうだ。「ポワロは、窮屈なエナメル靴でせかせかと気取ったようなステップを踏みながら芝生を横切った。」 あまり知られていないが、靴のせいでポワロの足は窮屈で、また、「気取って」歩くのである。歩き方はわかった。だが、ど…

chapter2-3. 彼を滑稽には演じない、絶対に

衣装の最初は、ボディスーツだ。お腹、胸、背中、肩に膨らみを持たせて、ポワロの体型になる必要があった。私は痩せすぎていて、ポワロらしくなかったのだ。ボディスーツを着ると40ポンドほど体重が増えて見え、200ポンド以上あるように見えた。セパレートタ…

chapter2-2. 彼を滑稽には演じない、絶対に

用意してあった口髭もひどいものだった。 大きすぎ、顔からはみ出して、まるで私はセイウチのようだった。なんてことだ!もう、なんて言っていいのかさえ分からなかった。非常にがっかりしたが、決意も新たにした。見せられた衣装は、私が演じるべきポワロの…

chapter2-1. 彼を滑稽には演じない、絶対に

ロンドンに戻っても、私はポワロの声についてずっと悩んでいた。きちんと表現せねばならない。コメディではないのだ。誰に笑われてもいけない。話し方はポワロを演じる上でのキモになるが、どうやって彼の声を表現したらよいのだろうか。 ベルギー語Walloon…

chapter1-7. 大役はしない

本を読み進め、彼について書かれているどんなこともメモを取るにつれて、徐々に自分が演じようとしている男のイメージがつかめてきた。 「飛行機が苦手。酔うから。」私のリストに次々と書き込まれる。こんなことも。「船旅も苦手。船酔い予防に『優れたlave…

chapter1-6. 大役はしない

1969年、23歳だった鳴かず飛ばずのチェスター時代から信じてきた、俳優としてのあるべき姿への信念があったから、ポワロの特徴を正確にとらえて演じた。 プロとしての初めてのこの年、なぜ自分は役者をしているのか、という自身のアイデンティティについて悩…

chapter1-5. 大役はしない

読み始めてみると、今までの映像では見たことのないキャラクターであることが分かってきた。 アルバート・フィニーでも、ピーター・ユスチノフでも、1986年のBBCドラマ「Murder by the Book」のイアン・ホルムでもなかった。 ポワロは、そのどれでもなかった…

chapter1-4. 大役はしない

ある日、撮影の休憩時間にユスチノフは私に言った。 「君ならポワロをやれる。とてもあってると思うよ」。 とても驚いたが、真面目にとりあわなかった。だが、10月のその夜、ブライアンとインド料理を食べながら話をしているとき、ユスチノフのその言葉が思…

chapter1-3. 大役はしない

それからはすごく幸運続きで、シアターや映画、ラジオ、テレビで常に仕事をしていた。1973年には、27歳でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの会員にもなった。カンパニーでの仕事は、ものすごく楽しかった。映画「Song for Europe」や、John Lighgowと共…

chapter1-2. 大役はしない

1987年の秋の夕暮、西ロンドンのActonにあるインド料理店で、ある役をやってみないかともちかけられた。その前に俳優としての経歴を語らなければならない。それがあってこそポワロが私のキャリアにやってきたのだ。私とポワロはリンクしている。それは読者に…

chapter 1-1. 大役はしない

2012年11月午後遅く、エルキュール・ポワロが死んだとき、私の一部分もポワロとともに死んだ。 アガサ・クリスティが生み出した潔癖症のベルギー人探偵は四半世紀にわたって私の人生の一部であった。ドラマの時間で100時間以上、25年以上にわたってポワロを…

プロローグ

それは湿度が高く、肌寒い11月の金曜の朝だった。年を取ったものだと感じた。そう、私は年寄りだ。今にも死にそうだ。狭心症だということは他人にはわかるまいが、その病気は確実に私の健康を侵している。息をするたびに、激しい咳がでる。体重は落ちたし(I…

POIROT and me : プロローグ

この本を妻シェイラに捧げる 著者について デビッド・スーシェは複数の受賞歴を持つイギリスの俳優である。エルキュール・ポワロ役として世界的に知られている。40年以上にわたる俳優のキャリアにおいて、主に舞台俳優として活躍してきた。また、ロイヤルシ…