chapter1-4. 大役はしない

ある日、撮影の休憩時間にユスチノフは私に言った。

「君ならポワロをやれる。とてもあってると思うよ」。

 

とても驚いたが、真面目にとりあわなかった。だが、10月のその夜、ブライアンとインド料理を食べながら話をしているとき、ユスチノフのその言葉が思い出された。ブライアンが「アルバート・フィニーのは見たんだよ、もちろんね」。彼は皿をテーブルの端に寄せながら言った。「『オリエント急行殺人事件』だよ。本当におもしろかった」

 

私は1974年のアルバートの演技を思い出していた。なんだかテンパッているな、という印象だった。アルバートは首をまったく動かしていないように見えたし、しわがれ声で、いつも怒っていた。だからといって彼の演技は損なわれていなかったし、ローレン・バコールイングリッド・バーグマン、John・Gielgud、ショーン・コネリーの演技も素晴らしかった。ショーン・コネリーは美貌で有名なDiane Cilentoと結婚していた時、Actonで私の近所に住んでいたことがあった。

 

ブライアンはカレーを口いっぱいに頬張って、「ロンドンのITVでポワロを原作にして新しいドラマシリーズを撮りたいんだ。テレビ局は乗り気で、来年に短編をもとにした1時間ドラマを10本作る予定だ。」と言った。

そしてちょっと間をおいて、爆弾発言をした。

 

「是非ポワロをやってほしいんだ」

私はカレーが載ったスプーンを口に運んでいたが、口の半分で止まった。

言葉通り、びっくり仰天したのだ。

その時の驚きは今でも覚えている。

 

私が? 

 

シェイクスピア劇の役者で、恐ろしげな悪役を演じてきた私が、

潔癖症で禿げ頭の探偵を?

 

どうしたらいいのかまったくわからなかったが、断らなかった。驚きすぎたのだ。

レストランを出た後、ブライアンは言った。

「本を送るよ。それを見てから考えをきかせて」

 

そう言って彼は暗闇に消えた。わたしは呆然としながら家路についた。2日後、数冊のポワロの原作が送られてきた。そのあとすぐに、ポワロの事件簿(Poirot’s Casebook)のコピーがきた。それにはブライアンが、最初の10話のテレビドラマシリーズで撮ろうとしている短編が書かれていた。私は興味を持った。しかし私はよく考えなければならない(I also thought I’d better know what I might be getting myself into)。

 

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