chapter2-3. 彼を滑稽には演じない、絶対に

衣装の最初は、ボディスーツだ。お腹、胸、背中、肩に膨らみを持たせて、ポワロの体型になる必要があった。私は痩せすぎていて、ポワロらしくなかったのだ。ボディスーツを着ると40ポンドほど体重が増えて見え、200ポンド以上あるように見えた。セパレートタイプのカラーをつけると、首回りが覆われて顔がふっくらして見えた。

ボディスーツの次は服だ。スクリーンテストにおいて私は次のことを主張していた。縦縞のズボンはしわ一つなく、黒のモーニングコートはアイロンがけされたばかり、グレイのベストは体にぴったりと合っていて、白シャツは輝いていなければならない、と。さらにスタイリストが、花瓶に花があしらわれた小さなブローチをボタンホールに付け足した。ブローチは口ひげの左側にあったので、長年にわたってメーキャップ担当を困らせた。

私は衣装を着てから最後に、メーキャップ用トレーラーか更衣室で口ひげを付けた。口ひげは常に二つ用意されていて、本番用とスペアだ。

衣装係の女性リーダーは始終、ポワロの帽子に丁寧にブラシ掛けしておかなければいけなかった。46番目に書かれたポワロの特徴を彼女に忘れないようにお願いした。それは、「家を出る前、常に帽子は『優しく』ブラシ掛けされる。」

自分に言い聞かせることになった48番目は「無秩序に我慢できない。洋服のたった一つの染みでも『銃で撃たれたような痛み』のように感じる。」服には一点の染みもあってはならない。

まだ写真しかないスタジオでスクリーンテストをしに足を踏み入れた時、私はためらった。クリスティは、カメラに向かうこの男を少しでも誇らしげに書いたはずだ。そこで私は、カメラの前で、自信たっぷりに行ったり来たりして、挨拶し、帽子を持ち上げて軽く微笑んで見せた。ポワロを演じられたかどうか自信はなかった。微笑んだ顔はまだぎこちなかった。

Pride cometh before a fall (←未訳) 私はポワロを演じられていない。ポワロの歩き方もなっちゃいない。

ブライアン・イーストマンとスクリーンテストを見ていて、ポワロの動きを表現できていないことに気付いた。歩幅は大きすぎるし、足取りがしっかりしすぎている。ポワロはダンサーのように歩かなければならない。それは、落ち着いていて、優雅で、足にボールが乗っているような、そんな歩き方だ。間違ってもイヤゴーのように、勇ましく、芝居がかった気難しい感じになってはならない。

Twickenhamからの帰り、車を運転しながら、心配に憑りつかれた。ポワロの歩き方をどうマスターしたらよいのだ・・・。まったくわからない。途方にくれてしまった。その時、クリスティが一度だけ、ポワロの歩き方について書いていたのを思い出した。だが、どの作品で?もう一度、クリスティの作品をひとつずつ読み返すことになった。全く偶然に、その個所にたどり着いた。