chapter2-4. 彼を滑稽には演じない、絶対に

クリスティが書いていたのはこうだ。「ポワロは、窮屈なエナメル靴でせかせかと気取ったようなステップを踏みながら芝生を横切った。」

あまり知られていないが、靴のせいでポワロの足は窮屈で、また、「気取って」歩くのである。歩き方はわかった。だが、どうやってこの歩き方をマスターしたらよいのだろうか?

かの有名なローレンス・オリヴィエの自伝に、復古喜劇の気取った歩き方をどのように習得したかについて書かれていたのを思い出した。「ペニー硬貨をお尻にはさんで、落とさないように歩いた。それができたら、役に必要な『気取った』歩き方が習得できた。」

早速、お尻にペニー硬貨をはさんで、庭を何周も歩いた。オリヴィエと違うのは、最近の小さな新ペニー硬貨を使ったことだ。彼は、大きな旧硬貨で練習したのだ。私はお尻にコインをはさんだまま、歩いたり、止まってみたり、曲がってみたり、お辞儀をしたり、と何時間も練習した。最初のうちは、何度かコインを落としたが、そのうち落とさなくなり、コインがお尻にあることを忘れるくらいにまでなった。歩幅は狭くして、ボールを足に乗せて、そしてエナメル靴のせいで足が痛いのだということを常に頭におきながら歩くようにした。

そこまできて、ブライアンに二回目のスクリーンテストをしようともちかけた。Twickenhamフィルムスタジオで、ポワロの衣装を着、メーキャップを施して(もちろん口髭も)、窮屈でピカピカなエナメル靴を履いた。そして、私はカメラの前に立った。

うまくいった。今では皆が知っている、あのポワロの歩き方だ。

最後にのこされた私の宿題はエドワード時代のマナーが書かれた本を探すことだった。ポワロがベルギー警察に勤めていたころ、1904年にAbercrombie 偽造事件という有名な事件が起こっている(「スタイルズ莊の怪事件」でスコットランドヤードジャップ警部が言及している)のなら、ポワロはエドワード時代のヨーロッパを体現する存在であったはずだ。

きっとポワロは成熟した男性として、19世紀末、20世紀初頭のマナーを習得していただろう。エドワード時代のマナーを完璧にマスターしてこそ、今までとは違うポワロが出来上がるのだ。

エドワード時代のジェントルマンはどのようにレディに挨拶をするのか、どのように帽子を持ち上げるのか、杖を持ってどう歩くのか、手袋をどう持ち、どのように、いつ外すのか、誰に対してどんなお辞儀をするのか、レディの手にどうキスするのか、どのように沈黙を理解し、黙り続けるのか。

この現代、ホンブルグ帽をかぶり、白手袋をし、銀細工が施された杖を持ち歩いている紳士はそうそうお目にかかれない。でも私は確信している。ポワロは絶対にそういう恰好をしている。