chapter7-2. ポワロの人物像を守るのは私

 

アガサがティーンエイジャーになり、姉マッジと一緒に殺人ミステリーを読んで、議論していた時、アガサは探偵小説を書いて自分の腕を試してみたいと言い出した。

マッジは、やってみたら、といったが、アガサが本当に書くとは思っていなかった。このティーンエイジャーの経験は忘れがたいものとなった。

 

20代初め、アガサは複数の男性から求婚されることになる。

1912年、22歳の時にそのうちの一人と婚約するのだが、血気溢れるアーチボルド・クリスティ中尉と恋におちてこの婚約は破棄される。

アーチーはインディアンシビルサービスに努める裁判官の息子で、当時英国陸軍の砲撃部隊に所属していた。

 

1年半たたないうちにアガサはアーチーと結婚し、アーチーは大尉に出世し、新設された空軍に所属していた。

1914年のクリスマスイブに結婚式は行われ、その4か月前にはドイツとの戦争が始まっていた。結婚式の二日後にはアーチーは西部最前線に戻り、新妻アガサはトーキーの病院で、フランドルから帰ってきた捕虜たちを看護していた。

1年半後には病院内の調剤薬局に勤務するようになり、ここで毒薬に関する知識を得、そこで得た知識が「スタイルズ莊の怪事件」をはじめとする小説に生かされるようになる。

 

この薬局に勤務している時に、アガサはクリスティ夫人として、「スタイルズ莊の怪事件」を書き始めるのだ。

看護婦として負傷者のケアにあたり、また夫アーチーの戦場での経験から、イングランドがベルギー人難民にとって第二の故郷になりつつあることを実感していた。クリスティの地元の近くトーベイのTor区にベルギー人地区ができつつあった。

そこで、若き日のクリスティは、ベルギー人を探偵にして小説を書いたらどうだろうか、と考え始めた。探偵はベルギー警察を引退している、ということはある程度年を取っているはず・・・

 

エルキュール・ポワロが誕生した瞬間だった。

 

このときヘイスティングスも思いつく。

ポワロとは戦争の前に、保険会社社員として働いていた時にベルギーで知り合ったことにして、年齢設定は30歳くらい。

戦争の怪我の療養が終わり、故郷に帰る道中で、ポワロと再会することにする。ヘイスティングスは幼馴染のジョン・キャベンディシュとその家族が所有している田舎にある屋敷、スタイルズ莊で一緒に過ごさないか、と誘われてやってくるのだ。

スタイルズ莊はエセックス州の実在しない村セントメアリーから1マイルほど離れた場所にある、という設定だ。スタイルズ莊は、ジョンの義理の母が所有していて、彼女は70を超えていて、20歳年下の陰気なアルフレッド・イングルソープを再婚したばかりだ。ジョンによるとアルフレッドは「折り紙付きのゴロツキ」だ。

というのも、黒々としたあごひげを蓄えていて、天候にお構いなしにいつでもエナメル靴を履いているという。そう、ここからストーリーは始まる。

 

設定は戦時中で、この作品は1920年にロンドンで出版され、大ヒットを飛ばし、20世紀におけるイギリス英語で書かれた犯罪ミステリーとして、クリスティは華々しくデビューした。だが、私にとって重要なのは、すでに世界中に読者を持つ、かの有名なシャーロック・ホームズのライバルとなるポワロが誕生したことだった。