小説「月の輝く夜に」

同名の映画がありますが
ここでは氷室冴子著「月の輝く夜に」について

「ざ・ちぇんじ!」と同じ文庫に収録されていたので、読んでみました。

今市子さんのカラー表紙絵がとても美しい装丁の本です

平安時代を舞台にしたお話ですが
「ざ・ちぇんじ!」
なんて素敵にジャパネスク」のコメディ、冒険活劇タッチとはガラっと変わって

人間の内面に切り込んでいる、
誰も幸せにならない、
苦い後味のストーリーです

コバルト文庫に収録されているけれど
これはティーン向け小説として発表されたのだろうか、
とちょっと疑問に思ってしまった作品でした

いや、作品としてはとてもよく出来ていると思いました。
グイグイと引っ張っていくストーリー展開は相変わらず見事で、一気に読ませる力はさすが氷室冴子、という感じです。

そして切なさに泣いちゃった。。。

読み終わって冷静になって考えてみると
貴志子の恋人、有実が父親ほどの年にしては
寛容さのカケラもないよなあ、
というのが素直な感想


ジャパネスクの高彬が嫉妬に狂って瑠璃の部屋でご乱心、
という展開が、可愛らしく、微笑ましいと思える


娘と同じくらいの10代の貴志子が
同年代のイケメン貴公子に片思いするくらい、
許してあげようよ、
何も密通したわけじゃあるまいし、
って考えてしまう。
左大臣の懐刀なんて言われるくらいの人なのに、その嫉妬のもっていき方が陰険なんだよね。。。クライ、暗すぎる。。。

煌姫のセリフ
「殿方の嫉妬というのは本当にやっかいなものですわ」
を、まさに君(有実)に捧げたい。

一方で、私はこの貴志子が片思いしている弾正の宮にはすごく惹かれました
惚れた、とか、好き、という意味ではなく、悪魔的魅力のキャラ、という意味で。

あんな男に惚れちゃうなんて、もう悲劇しかないよ、貴志子ちゃん。。。

「死んでもいい」という言葉が
自分の想いとは逆にスラッと口にしたことがあるけれど
そんな自分に、自分が驚きましたよ

と涼やかに語る宮の凄さよ

復讐の為に、好きでもない左大臣家の一の姫と駈落ちする宮

数年後に、その計略駈落ちが原因で、自分を怨んでいる一の姫と形だけの結婚をできる宮

貴志子が自分に片思いしていることを知って残酷な言葉を投げかけることができる宮

いや、凄まじいね。。。


痣のおかげで、真実の愛を見つけることが出来たはずの有実の娘も、不幸になるために入内する、っていう。。。

何?みんなマゾなの?

と思わず突っ込まずにはいられない

ただこれは読了して、時間を置いて考えたことで
読んでる時は、
なぜだか歪んでしまった感情や
人生のやりきれなさ、
運命のどうにもならなさ、
世間の不条理みたいなものに
見事に絡め取られて
一気に読み終わってしまいます

いや本当に氷室冴子は、凄い
と感じ入った作品でした。

たぶんこういう作品は
萩尾望都がコミカライズすると化学反応が起きると思う

ただ、
別物じゃん!
っていう作品になる可能性もあるけど

#月の輝く夜に
#氷室冴子