「有明の別れ」南條範夫

原作古典の「有明の別れ」は
とりかえばや物語と似たところのある物語ですが、
成立したのはとりかえばや物語より後、ということになっているようです。

原作の古典では
男装の女君(「ざ・ちぇんじ!」(氷室冴子著)の綺羅君(女)に当たると思えばいいです)が天女という設定で、
なので万事に秀でているとか
透明マントみたいなものを使ったりするらしい。。。

が、この南條範夫氏は、そう言う現代的には
「なんじゃそりゃ、ありえねー。御伽草子か」みたいな、ちょっと受け入れがたい部分は排除して
つまり「男装の女君は天女じゃなくて人間」という前提で
分かりやすく小説仕立てにしてくださったのがこちらの作品ということらしい。


図書館にあったよ

一部と二部にわかれていて、二部のほうが長い

というか一部は前座というか前置きみたいな扱いで
二部がメイン、なのかな?

一部は、男装の女君(大将)を帝が執拗に追い回し、ある夜、手籠にしちゃって、明け方退出を許すも、今夜も会って欲しいと迫る
(このシーンがえらく具体的に書いてあったけど、そこは南條範夫氏の創作なのだろうか?男性にしか書けない表現な気がする)

女であることがバレた女君は、そんな帝のお願いなんか知ったこっちゃない、と内裏を退出し、ショックのあまり、その日から長いこと寝込んでしまう
(このあたりは、さいとうちほ氏の「とりかえ・ばや」で、沙羅が石蕗と一夜を過ごした後
、沙羅が陥った状況とそっくりだった。さいとうちほ氏は「有明の別れ」も読まれたんだろうか)

とりかえばや物語」での宰相の中将との初夜がめちゃ色っぽくてドキドキしたのに比べると

有明の別れ」は
「酷いよ、帝。。。女君、超可哀想。。。嫌がってるじゃん」
という感想。

セクハラですよ


で、家で寝込んだままの女君に対して帝は、
出仕しないなら、と

賀茂神社まで行幸するから、警備ヨロピク。
だって大将だもんね?」

え?

今度はパワハラ?


流石の女君も
行幸には警備責任者として同行したものの
家に帰るやいなや、
「もうヤダヤダ!男装なんかしたくない!男としての役目は果たしたもーん」
と父親に泣きつく。

で、大将は無理がたたって、そのまま死んだことにして
妹姫になって、女御として入内したら
帝は大将と女御が同一人物だと気づき
(気づくものなのか?同じ場所に黒子でもあったのか。でも気づいたことになっている)
お仕事もホッポりだして、女御との情事に溺れてゆく。。。

もう帝の頭がお花畑で泣けてくるわ。。。


帝以外にも色々な貴族の男が出てきますが
まあ、帝を筆頭に
「あんたら、最低ね。。。」
と苦笑せずには読めない作品


「源氏の男はみんなサイテー」という本がありますが
私の正直な感想は「有明の別れ」にでてくる男のほうがサイテーです

ただ一つ、すごく納得したのが「帝も男」という表現

うむ、そのとおりだ


ただ、女君が「天女」ということで
この人の世界のものではない美しさに惑わされる男たち、と言うなら
まあ「輝夜姫」的に分からないでもないのですが
「人間」と言うことになっているので。。。

二部は、形式上「甥(名義上は亡き大将の息子)」が、これまた執拗に「叔母(女院、かつての男装の女君)」を慕う物語。

この二人、名義上は親族ですが、血縁関係はない

原作が、甥である道房が、実は女院とは血縁関係がない、と知ったところで、唐突に終わっているので南條範夫氏も、そこで終わっているのですが

正直、ここまで読まされてきた読者としては
「いや、その事実を知ったあと、道房は絶対に女院の寝所に行って、思いを遂げただろ」
じゃないとなんのために、こんな長い前ふり読まされたんだヨ
と切れそうになります

そう
長いのよ
二部が。。。

はい、もう二部は
延々とそんなことしか書いてない。。。

という印象です
(いや、もっと色々な人間模様が書いてありますが、それがどうした、という印象)

天女という設定を捨ててしまうと
なんでこんなに道房が女院を追い回しているのか
ちょっとわからない

ストーカーレベル
怖いな、この男、という感じで

朱雀院(かつての帝)が男装してた時代のことを暗にほのめかして、女院をからかうシーンとか
まだそれを知らない道房は
「院と女院が目の前でイチャイチャしててツライ」
と思ったり。。。


南條氏は天女という設定を捨てても
不自然じゃない、ということで書かれたらしいですが
現実的にはここまで執拗な男、道房は怖い。。。




帝と女君がラブラブになる話し、と思って読んだら
道房(解説を書かれている河合隼雄氏は「とりかえばや物語」の宰相の中将に当る気がする、とのこと。マジか。。。嘘だろ)が、恋焦がれる女院の代替として色々な女に手を出し、それでもなお忘れられない、と女院を追い続けるストーカー男の話しだった。。。
藤壺を慕う光源氏と思えばいいのか?でも光源氏は、一応は藤壺と両思いだからなあ)


有明の別れ」とは
女君が、二人の男(帝(後の朱雀院)と道房)を悩殺している、というハナシです

ああ、それで道房が宰相の中将に当るいうことか。。。


いやでもこのハナシにでてくる男は
帝含めほとんど遊び人だよ?
帝なんか男色趣味もあるんだよ?
(当時は普通のことかもしれませんが)


う、うーん。。。


ここまできたら
「旧とりかえばや物語」が読みたい
でもこっちは現代語訳もなければ本にもなってないんだろうなあ

こっちは宰相の中将が、女君のロストバージンの相手で
最終的に女君と結ばれるのが宰相の中将らしい

というか
「旧とりかえばや物語」の存在を知って
やっぱりそうなんだ、って思いました

帝は急に出しゃばってきた感強いな、という感覚は合ってたんだな、と

そもそもは、
宰相の中将と女君の話しなんだ。。。




お願い
どうか宰相の中将がいい男でありますように



有明の別れ」の帝が想像してたよりバカでビックリ☆

そんな感想になってしまった「有明の別れ」

お時間あるときもでも
どうぞ

#有明の別れ
#南條範夫