菊凶

後宮小説がアニメ化されるにあたって、大幅な人物像改変が行われた1人が菊凶だろう
原作者から「たのむわ…菊凶」と書かれた不憫な(?)人物である

私はアニメを先に見ていたことと、原作を読んだのが中学一年生だったこともあり、あまりよくわかっていなかった。
アニメではお姉系キャラに設定され、IKKOさんバリのしゃべり方をしていた。声は三ツ矢雄二さん。私は当時、三ツ矢さんといえば、「タッチ」のたっちゃんのイメージしかなく、このオカマキャラが恐ろしくピッタリしていたことに、声優さんてすごいな、といたく感心したのだった。三ツ矢さんも楽しく演じられていた、のではないでしょうか。知らんけど

というアニメの設定とは違い、原作の菊凶は、当時の私にとって、なんだかやたらに頭の切れ、女に手のはやい美青年、そして素乾王朝の転覆を謀っている人物、という程度の認識だった。
いわば悪役だから、菊凶が江葉にプライドを傷つけられるようなふられかたをしたエピソードを、「いい気味」と思ってみていた程度である。

のだが、はや30年以上経過した今、読み返してみると、華麗なる(?)宮廷で、若く美しく聡明な新皇帝双槐樹と、これまた美貌で野心家、それに応じた能力をもつ成り上がりの菊凶とが
バチバチ火花を散らしていたのである。
表面上、 双槐樹は皇太后(継母)に命を狙われているようにみえるが、手を引いているのは菊凶であり、真剣に素乾王朝を倒そうとしてた、ただ一人の内部の人間である。

これがなぜアニメでは、あんなキュウリのオカマになってしまったのか

それは80分という時間が大きく関係していると思う。
菊凶を原作通りに設定したら、わずか80分枠では双槐樹と(見た目の)キャラが被るのである。

数話にわたって放送されたなら、それぞれを原作通りに表現できたかもしれない。しかし、わずか80分で、怒濤のストーリー展開が待ち構えている上に、美青年が二人も出てきては、 双槐樹の印象が弱くなってしまう。

見終わった後、視聴者は「双槐樹、かっこよかった。命落として不憫」と思うようにしなければならないのに、なんか見目よい若い男性二人出てきたけど、えっと…?と混乱を招いてしまう

一方、笑いさえ誘うようなキュウリのオカマキャラでは、殺されても誰もそんなことは思わない。見終わった後、菊凶を可哀想だと思ったのは、
(別の意味で、だが)原作者 酒見賢一氏だけではないだろうか

たぶん、もっと長い時間(最低2時間か)をかけて、きちんと描きわけていたら、ファンの女子たちは
双槐樹派か菊凶派かに分かれて、楽しい論議を展開してくれていたに違いない

蛇足ながら
私は、
双槐樹派である

理由としては、女性を愛することができる男の方が、魅力的だと感じる年になったからである
(とはいえ、菊凶が好きだったことなど一度もない。アニメを先にみてイメージが固定してしまったのが最大の原因だと思う)

#後宮小説 #雲のように風のように #菊凶