玉遥樹

アニメ化の際、人物像が大きく変えられた点でいえば、菊凶と並んで玉遥樹が挙げられるだろう

菊凶がクールビューティ(この言葉を男性に当てはめてもよいのかは知らないが、使う)から、コメディタッチに格下げ(?)的な変更をくらったのに対し、
原作における玉遥樹はインセストタブーの関係を望む(というか、原作のあとがきで酒見賢一氏がこの言葉を使っていたのだが、私は深く考えずスルーしていたため、今日まではっきり意味を理解していなかったよ…)という、庶民的感覚からすると精神的異常の持ち主から、アニメでは、武術に秀で、弟の身を案じる至って健全な心優しい姉へと変更されていた(初対面の相手に、自己紹介よろしく演舞してみせたのは世沙明でなくとも「変人」と思うが…)。

原作者も書いている通り、こども向けアニメという点において仕方がないし、まあ妥当な変更だとは思う。

話が飛ぶが、原作には即位式の様子が書かれている。

「皇太子はほれぼれするような動作で戴冠の大礼を終え(中略)威厳と言ってもいいほどの雰囲気を射した」

玉遥樹がこの即位式に参列したかは書かれていないのだが、もし私なら映像化するときに、即位式に参列する彼女の様子をヒトコマなりワンカットなり入れたい。

原作通りの設定でいくなら、一国の君主として君臨する美しい弟にうっとりする様だし、
アニメ的設定なら、母親よろしく、ヨチヨチしていた子がこんなに立派になって…、と涙を拭う姿である。

思うのだが、原作の玉遥樹は双槐樹と幼少期をほとんど一緒に過ごしていないのではないか。
オムツをつけていた双槐樹を知らないのだ。
少年くらいまで成長した双槐樹に、突然出会ったのではないだろうか。

誰が言ったのか、研究したのか覚えていないが、6歳までに親しく接していた異性には、家族的感情が優先し、恋愛感情は起こりにくいと、読んだことがある。

言わずもがなだが、アニメの玉遥樹は一緒に育った仲だろう。転ばぬように気を付けながら、幼い弟の手を引いていたに違いない。

ただ、このような変更が起こると、
1つ不都合が起きた。

原作では玉遥樹が、双槐樹と銀河の障害物的役割を果たした結果、
双槐樹が銀河に対して、率直に愛を告白するシーンへとつながる。

「『お前様を今はじめて愛しいと思った。悪く思うな、いままではお前様を都合のよい女だとしか思っておらなんだ。だが、これからは違う。お前様を真実に正妃とするつもりだ』(中略)『姉上がお前様に手をかけるようなことがあれば、わし自らの手で姉上を討つ』」

二人が恋人として(とういうか形式上は夫婦なのだが)、初めて心を通わせた印象的なシーンだ。

なのだが、玉遥樹が心優しい姉になってしまったアニメでは、
双槐樹と銀河の関係において、友情から恋愛感情にいつ切り替わったのか、よくわからないままストーリーが展開してしまった。

強引な解釈をすれば、
双槐樹が1人敵陣に乗り込んだ時かもしれないが…

なので、アニメではその存在意義に疑問が起こる設定に変えられてしまったので、いっそのこと省略して、原作者イチオシの王斉美に時間を当てた方がよかったのかもね、と思ったりする。
アニメでは、まだ女大学が開かれている期間に、 双槐樹が暗殺者に襲撃されるシーンがあり、そこに玉遥樹が助けに現れるのだが、代わりに王斉美でも問題ない気がしてきた。

で、また話が変わるのだが、
玉遥樹のインセストタブーな感情は王宮物の約束事の1つである。
庶民間では異常と映っても、特権階級、特に、王族、皇族では諸事情から、世界的にみても実例には事欠かない。物語的にちょっとしたスパイス程度と見てよい。

ただ、双槐樹という皇帝は、継母に命を狙われ、実の姉から貞操の危機(?)に陥れられ、内政的には、宦官は私腹を肥やすことにしか興味がなく、外政的には、王朝の存続を脅かす反乱が起きている、という何とも苦労人なのである。

17歳なのに…

アニメでは、双槐樹が継母に声をかけるシーンがあった。原作にはない。よくできた場面である。

「『うちに争いを抱える国は外敵を迎えて脆い、と教えてくれた先人達の言葉が胸をえぐります。思えば、私も愚かでした。逃げてばかりいないで、国の将来について母上と向き合えばよかった』」

今気づいたけど、アニメの双槐樹はけっこう普通の言葉遣いだったんですね。

さて、最後になったが、この玉遥樹を演じたのは、ブレーク前の高畑淳子さんである。
彼女がかなり後にブレークした時、この女優さんは声優もしてたんだよ!と、心のなかで密かに叫んでいたのだった。
マニアックでごめんな

#玉遥樹 #後宮小説 #雲のように風のように