「ざ・ちぇんじ!」と「とりかえばや物語」


山内直実さんのTwitterより
平安絵巻風「ざ・ちぇんじ!」の美しいイラスト。惚れ惚れする

氷室冴子著「ざ・ちぇんじ!」は平安末期、鎌倉初期、つまり大河ドラマ「鎌倉殿の13人」あたりの時代に成立した古典「とりかえばや物語」を下敷きとして創作されている、らしい。

私は山内直実氏がコミカライズした漫画を先に読んで、その後から氷室冴子さんの原作を読んだ。

ジャパネスクとの違いは、色々あるけれど「ざ・ちぇんじ!」は年配の登場人物が京都言葉を使っているところが、私は特に印象的だった。
それはさておき。。。

30年以上前にジャパネスクと同時並行で読んだ時は、「とりかえばや物語」に手を出すことはしなかったのですが、今回読んでみました。

本当は田辺聖子の「とりかえばや物語」を借りようと思ったのだけれども、図書館になかったよ。。。

で、中村真一郎訳「とりかえばや物語」を読みました。


すっげー、読みにくい。。。


言葉遣いが中途半端に古語のままだし、
それに人物が、誰が誰だか混乱する書き方なんです。

例えば「中納言」がだれを指しているのか
注意深く読んでいないと、分からなくなるんですよ!
どの中納言なの〜! きぃ〜!

あら、失礼
えーっと
ぼー、って読んでいると、えーっとこの人誰のことだっけ?ってなるのですよ。


登場人物は名前じゃなくて、肩書で呼ばれるものだから、
出世したりすると当然、物語の中の呼び名がシレッと変わるし(宰相の中将→中納言とか)、また、主人公の姫と若君が入れ替わったりするので、同じ作品の中でも、前半の「大将」と後半の「大将」は違う人物なのに、その説明とか一切ナシ!
(ちゃんと読んでたらわかるでしょ、的な)

ややこしいの極みなので、
ここでは「ざ・ちぇんじ!」の呼び名で通します。

で、私が「とりかえばや物語」を読んで「ざ・ちぇんじ!」ファンとして、度肝抜かれた
じゃない、
仰天した、
じゃない、
ビックリしたことを至極勝手に書き連ねたいと思います。

(ホント、こんなブログ読む人いるんだろうか)

まず、綺羅姫(男)から

その壱
綺羅姫(男)の本命が女東宮じゃないヨ!
なのに「尚侍」時代、女東宮を孕ませて、子供まで産ませてる!!
男の姿に戻ったら、通う姫が複数できてるよ!宰相の中将をプレイボーイって非難できる立場か!


あー、
えーっと
先に言っておきますが
私は宰相の中将が好きなんです

「私は何をしても許される立場なのだ!」
なんて考えてしまう今上より、
ストレートのはずなのに、綺羅君(女)に惚れちゃって恋心に苦しむところや↓

自分の気持ちに素直に従って、綺羅にキスしただけで、綺羅を傷つけた、と本気で悩んじゃう、
そして最終的には、三の姫を幸せにすることが綺羅への唯一の償い、と考える、そんな中将が好きなんです。

なんだかんだ言って、基本的に「ざ・ちぇんじ!」の宰相の中将は真面目だ。。。


で、話を戻して、驚いたことの続き

其のニ
三の姫(綺羅君(女)の妻)は美人
十人並みの容姿で、性格も子供っぽいという設定は「ざ・ちぇんじ!」特有の設定のようです。でも「とりかえばや物語」の妻も、綺羅君(女)と、夜通し女子トーーーク!してるだけの夫婦の日々について、宰相の中将が通ってくるまでは「夫婦とはそんなもの」と思っている。。。
どうやら「ざ・ちぇんじ!」の綺羅姫(男)のような耳年増ではないらしい。綺羅姫(男)が、男性の姿に戻ったあと、この妻の元に、再度(と言っていいのかわからないが、妻にとっては、ということで)通い始めるのですが、美人なのもあってマメマメしく通い、ちゃっかり子供作ってる。。。
きぃーらぁー(男)!!



其の三
「吉野の宮」という名をもつ、都から外れた場所に、綺羅二人の相談相手がいる
さいとうちほ氏の「とりかえ・ばや」ではこの吉野の宮がけっこう重要な役でしたが、「ざ・ちぇんじ!」ではバッサリ削られている。強いて言うなら、兵部卿宮あたりに面影があるような。。。
いや、無いな、ごめん


其の四
綺羅二人が、入れ替わった後の話も書かれている
というか「ざ・ちぇんじ!」は「とりかえばや物語」の前半のみをなぞっている、と言ったほうが正確かも。

なので綺羅君(女)が尚侍として出仕した後、今上のお手付きになるシーンも書かれている。「ざ・ちぇんじ!」では女御として入内してから今上と。。。、っいう感じで終わりましたが、
とりかえばや物語」は既成事実が先です。

で、そのシーンでの綺羅君(女)は「処女じゃないことが分かってしまう、どうしよう」って悩みながら、お手付きになるんだけど、私は「そこ、悩むとこなんだ。。。」って、苦笑したよね。。。

ただ意外なのが、綺羅君(女)は今上に夜這い、じゃない、忍んで来られて、想いが叶って嬉しい、なんて思ってなくて、
「ここで助けを求めても、相手が帝と分かったら誰も助けてはくれない(悲しすぎる。。。さすが、「何をしても許される身」のミカド様よ)。男の姿で宰相の中将に力の限り抵抗した時でさえ抵抗しきれなかったのに、女の姿でいる今、男に抵抗しきれるはずがない」って、ほぼ諦めの境地で、今上を受け入れる。

とりかえばや物語」の綺羅君(女)は、自分から誰も好きにはならなくて、
「自分を好きって言ってくれる人が、好き」みたいなタイプらしい


あー。。。
「ざ・ちぇんじ!」と一番大きく違うと思ったことに触れちゃったので
本丸に行っちゃいましょう!


もうね、一番驚いたのが

其の五
綺羅君(女)と宰相の中将が、イチャイチャしてる!
めっちゃイチャイチャしてる!

子供までできてる!!


宰相の中将ファンの私としては
ぜひ山内直実氏に二人のシーンを描いてほしい。。。

こんな行儀いいやつじゃなくてさあ。。。

って、私は何を書いているのか

いや。。。
宰相の中将が綺羅君(女)を男と信じたまま、想いをとげるシーンが、超エロかったです
もうね、そこだけでもいいから読んで欲しいくらい

とりかえばや物語」は
あのシーンだけ読めばいいよ(暴言、でも真顔)


少女漫画家なら
絶対描きたいと思うシーンだと、
断言するわ!


「ざ・ちぇんじ!」では
雰囲気あるシーンとはならず、
キスはしたものの、宰相の中将は流血しちゃうわ、二人とも袍はやぶけるわ、冠は吹っ飛ぶわ、のケンカシーンになってましたけど。。。


兵部卿宮の邪魔が入ってキスだけで終わった「ざ・ちぇんじ!」と違って
とりかえばや物語」では
宰相の中将は綺羅君(女)を男だと思って
行為に及び、邪魔も入らず、そのまま手籠にしちゃうので、女だとばれちゃうんですが。。。

この宰相の中将がね、
綺羅君(女)のことが
好きで、好きでしょうがないのが痛いほどわかる
で、綺羅君(女)も、好き
両思い
このあとも人目を偲んで逢瀬を重ねるわけですよ
そういう関係になっても、二人とも宮廷には出仕していて、お互い表面上は友人として接しなければならない際の、細やかな感情の揺れとか、すごく素敵なんです
(社内恋愛禁止の会社内で、恋愛してる感じに近い?のかな)


ただ宰相の中将は綺羅のことが一番好きなんだけど
同時並行で進んでいた女性が妊娠してるので
根がプレイボーイな分、宰相の中将はその人をもムゲにできず、優しいので(光源氏がいい例よ)、
綺羅は宰相の中将は自分だけを愛してくれているわけじゃないことに、不満はある

一夫多妻が普通の社会でも、女性って自分一人だけを愛されたい存在なんだなあ、ってシミジミ思った。なまじ男社会に生きていた綺羅君(女)は、宰相の中将の立場が分かるので「私だけを愛してくれなきゃ嫌」って我儘を言えない。
そこがジャパネスクの瑠璃とは違って、切ないなあ。。。

で、その後
一方、綺羅君(女)が尚侍として出仕すると
今上は綺羅一筋になっちゃって
他の女御が失業状態になるんですが。。。
それもどうなんだろ。。。


宰相の中将と綺羅君(女)が
一時的とはいえ、ラブラブで嬉しかった。

この物語のヒロインは綺羅君(女)で、ヒーローは宰相の中将だよね?
(今上と結ばれてメデタシ、なんだけどやっぱり今上は蚊帳の外感が否めないのよねえ)
という、そんな感想になってしまった「とりかえばや物語

「あなたはどれだけ宰相の中将が好きなんですか」
というツッコミが聞こえてしまいそうなところで

今宵はここまでにしとうございます


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